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東京地方裁判所八王子支部 平成7年(ワ)2264号 判決

原告

内野孝

被告

大関真弘

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇〇五万八二四五円及びこれに対する平成六年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一億七二六八万一六七円及びこれに対する平成六年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、片側二車線の道路の第一車線(左側車線)を走行中の原告運転の原動機付自転車が第二車線(右側車線)に車線変更をした際、後方より第二車線を進行中の被告運転の自動車が衝突し、原告が負傷したことから、原告が、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づいて損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実等

1  本件交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

事故の日時 平成六年二月四日午後七時四〇分頃

事故の場所 東京都八王子市狭間町一六〇八番地先

加害者 被告(加害車両運転)

加害車両 普通乗用自動車(八王子五六ほ九七三六)

被害者 原告、原動機付自転車(八王子市ほ九五一四)に乗車中

事故の態様 原告が、片側二車線の道路の第一車線を原動機付自転車に乗って時速約三〇キロメートルで進行し、第二車線に車線変更をした際、第二車線を時速約一〇〇キロメートルで走行してきた加害車両に衝突された。

2  責任原因

被告は、加害車両を運転中、制限速度である五〇キロメートルを大幅に超える高速度で走行し、前方の安全確認を怠ったために原告に衝突したから、民法七〇九条に基づき、また、加害車両を保有し、その運行供用者であるから、自賠法三条に基づき、本件事故について損害賠償責任がある。

3  傷害の内容及び治療の経過(甲四、五、八、二三ないし二八、七五ないし八一、八九、九七、弁論の全趣旨)

(一) 傷病名 右下腿骨開放、骨盤骨折、恥骨結合離開、左鎖骨骨折、左多発肋骨骨折、肺挫傷、肩甲骨骨折、右母指基節骨開放骨折、頭部外傷後脱毛

(二) 治療状況 (別紙記載のとおり)

入院日数 五六七日

通院実日数 一七日

(三) 症状固定 平成七年一月三一日

(四) 後遺症 右大腿膝上一二センチメートルで切断、右母指基節骨骨折後IP関節の機能障害、恥骨結合離開(約二センチメートル)

4  損害の填補

原告は被告から、治療費として金一〇四〇万九七〇三円、入院付添費として金八六万一一二四円、通院費として金一六万四八七〇円、諸雑費として金一六万七六九円、休業損害として金一〇〇万九二八七円、及びその他として金一七〇万五八三円の合計金一四三〇万六三三六円を受領した。

二  争点

1  過失相殺

(一) 被告の主張

〈1〉本件事故は、進路変更した原動機付自転車と後続直進四輪車の衝突事故であるから、被告車が優先するのに原告車が優先したこと、〈2〉本件現場は、原告が右折しようとした旨主張する交差点から少なくとも二、三〇〇メートルの距離があるから、右折のために進路変更できる場合に当たらず、また、左側の停車帯には残雪があったとしても、車線上は乾燥しており、原告車の走行に支障があったとは認められないから、右時点での原告の進路変更は不必要なものであるのに原告が進路変更をしたこと、〈3〉原告はゴルフバッグを足下から肩に立てかけた不自然な態勢で運転し右後方の安全確認が不十分であったこと、〈4〉原告は進路変更の合図をしなかったか、合図をしたとしても合図後約一・三秒後に進路変更を開始したので(道路交通法施行令二一条は同一方向に進行しながら進路を右方に変えるときは、その行為をしようとする時の三秒前に合図をしなければならない旨定めている。)、少なくとも不適切な合図であったことなどの過失が原告にはあるので、四割の過失相殺を主張する。

(二) 原告の主張

本件事故は、被告がエンジンテストの目的で、制限速度五〇キロメートルの一般道路を時速一〇〇キロメートル以上の猛スピードで、車両の計器類に目を奪われ、原告の動静に注意を払わず、しかも酒気を帯びて暴走したため発生したもので、被告の全面過失によるから、原告には全く落度がない。

2  損害

(一) 原告の主張

(1) 入院費及び治療費(被告より受領した金一〇四〇万九七〇三円の外) 金一一四万六五二〇円

症状固定日(平成七年一月三一日)以後である平成七年六月二七日から平成一〇年一月二三日までの間に発生した財団法人鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター及び東京医科大学八王子医療センターにおける入院費及び治療費と文書作成費用の合計額

(2) 入院付添費 金三九六万九〇〇〇円(近親者の付添費一日当たり金七〇〇〇円、入院日数五六七日で算出)

(3) 入院雑費 金七三万七一〇〇円(一日当たり金一三〇〇円、入院日数五六七日で算出)

(4) 通院付添費 金五万一〇〇〇円{近親者の付添費一日当たり金三〇〇〇円、通院日数一七日(平成六年七月二五日から平成八年三月四日までの間)で算出}

(5) 入通院交通費(被告より受領した金一六万四八七〇円の外) 金二一万六四五〇円

八王子市にある自宅から鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター等までの平成七年八月一四日から平成八年五月一七日までの間に入通院に利用したタクシー代金一六万三四一〇円と、平成七年八月一四日から平成八年五月一七日までの間に両親が付添のために使った交通費実費金四万五五八〇円、及び平成九年三月一〇日から平成一〇年一月二三日までの間に入退院に使った交通費実費金七四六〇円

(6) 医師謝礼 金三〇万円

(7) 装具・器具 金三九五万四四一〇円

〈1〉 義足購入費 金八四万九四一〇円

〈2〉 将来の義足の修理、交換費用 金三一〇万五〇〇〇円(一回につき少なくとも金一〇〇万円を要し、五年ごとに義足を交換するものとして、年五パーセントの中間利息をライプニッツ計算法により控除した。)

計算 1000000×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420)(平均余命の間のライプニッツ係数)

(8) 家屋・調度品購入費 金二〇〇万円

〈1〉 乗用車 金六〇万円(障害者用への改造費一回分金一〇万円で、改造車の耐用年数六年として七五歳まで六回の改造が必要となる。)

〈2〉 家改造費 金一三三万円

〈3〉 自動車教習所の授業料 金七万円

(9) 休業損害 金三〇七万七八八六円(内金一〇〇万九二八七円は被告から受領済み)

原告の本件事故発生当時の年収は金三一一万二〇〇〇円で、休業日数は平成六年二月五日から症状固定日である平成七年一月三一日までの三六一日であるから、休業損害は右金額となる。

(10) 逸失利益 金一億二〇七八万八八九一円

原告の職業は、ミュージシャンで、本件事故時の収入が一時的なバイト収入であるため、収入額は、平成五年度賃金センサスにより学歴(日本大学芸術学部卒業)、年齢を考慮したものによるべきである。そうすると、年収は金六六九万七〇〇〇円となる。そして、原告の後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)の併合三級に該当するので、労働能力喪失率は一〇〇分の一〇〇、本件事故による症状固定時の原告の年齢は三七歳であるから、六七歳まで労働可能年数は三〇年であるので、ホフマン方式により中間利息を控除すると、本件事故による逸失利益は右金額となる。

計算 6699700×18.029=120788891

(11) 慰謝料 金二一七五万円

入通院(傷害)慰謝料として金三二五万円、後遺症慰謝料として金一八五〇万円が相当である。

(12) 弁護士費用 金一五六九万八一九七円

(二) 被告の主張

(1) 症状固定後の治療費は特段の事情がない限り認められないところ、本件において特段の事情は認められない。

(2) 被告は、平成六年二月二八日から同年四月三〇日まで、職業付添人の付添費として入院付添費を支払った。原告の症状、年齢から、それ以降の入院に付添いは不要である。

(3) 原告は、義足を装着して独力歩行が可能であるから、自動車の改造や家屋の改築の必要性は認められない。

(4) 身体障害者福祉法等に基づき、原告に対し、義肢、装具等の交付ないし費用の支給等がなされ、装具については申請をすれば支給を得られる以上、相当因果関係を欠く。また、将来の義足費は、改良の余地もあり現段階で損害として算定することは困難であるから、慰謝料において斟酌すれば足りる。

(5) 逸失利益の算定について、収入は、事故前の現実の所得に基づいて算定するのが原則であり、現実の所得を基礎とするのが不合理と認められる特段の事情がある場合に、賃金センサス等により算定するのである。しかるに、本件では現実の所得を基礎とするのを不合理とする事情はないから、実収入によるべきである。

労働能力喪失率について、原告の後遺障害は等級表四級五号と一二級五号の併合三級であり、一二級五号の骨の変形は労働能力に支障を及ぼすものではないので、基本的には四級五号の喪失率で判断すべきであり、しかも補助器具は進歩し、原告は義足を着用して独力歩行が可能であるから、等級表の標準喪失率でも過大である。

原告は、症状固定時三七歳であり六七歳まで請求するとして、三〇年に対応する新ホフマン係数を用いて計算しているが、中間利息の控除については、ライプニッツ係数を採用するのが相当である。

原告は、本件事故時は三六歳、症状固定時は三七歳であるから、ライプニッツ係数の計算は、三六歳ないし六七歳の係数から三六歳ないし三七歳の係数を引いた数値、すなわち三一年に対応する一五・五九二八から一年に対応する〇・九五二三を引いた一四・六四〇五を用いるべきである。

第三争点に対する判断

一  過失相殺

前記争いのない事実等及び証拠(甲一ないし三、六、七、九ないし二二、原告本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、ほぼ東西に伸びる車道総幅員二〇メートル、片側二車線の市道一級六号線(以下「本件道路」という。)で、三メートルの中央分離帯で分離され、西向車線の幅員は、第一車線二・九五メートル、第二車線三・二メートルで、幅員二・五メートルの歩道と車道はガードレールで区別され、歩道と第一車線との間に二・三五メートルの停車帯がある。本件事故現場付近の道路は、直線でアスファルト舗装され、平坦で乾燥し、制限時速五〇キロメートルで、車道両側に約四二メートルの等間隔で道路照明灯が設置され、夜間も見通しはよく、約二五〇メートル以内の視認が可能であった。本件事故当時、交通は閑散とし、天候は晴れていたが、路側帯には残雪が凍結し、二輪車の通行は困難であった。

2  被告は、エンジンテストの目的で、第一車線を時速約一〇〇キロメートル、車のヘッドライトは上向きの状態で、西に向け走行中、左前方約七四・四五メートル先の第一車線を先行する原告を発見した。その時まだ原告は進路変更の合図をしていなかったので、被告は原告がそのまま第一車線を走行するものと思っていた。被告は、左前方約一一・六メートルに至って初めて原告が第一車線から第二車線に進路変更をしようとしていることに気付き、急制動の措置をとったが、間に合わず被告車前部を原告車後部に衝突させた。

3  被告は、本件事故前の午後六時三〇分頃、勤務先で缶ビール(三五〇ミリリットル)一缶を飲酒し、本件事故時の血液中のアルコール濃度は、呼気一リットルにつき〇・一ミリグラムであった。

4  原告は、本件道路の第一車線を、携帯用のゴルフケースをスクーター式の足を乗せるところに置き股の間にはさみ左胸に立てかけて、時速約三〇キロメートルで西に向け走行していた。当時原告の前後に他車はいなかった。原告は、衝突地点より二、三〇〇メートル程先にあるT字路交差点で町田街道へ向け右折する予定であったが、衝突地点より約一二〇メートル程手前にある狭間駅入口交差点を過ぎてからしばらくして右への進路変更の合図を出し、右ミラーを見て、更に首を右に振って右後方を確認し、進路変更を開始し、第二車線に進入した途端、被告に衝突された。なお、本件衝突地点から約五六メートル先の中央分離帯の切れ目は東浅川町方面に通ずる右折道路と交差している。

5  原告の立会いによる実況見分調書(甲六)によれば、原告は、合図をして八・五メートル進んで右後方を見、さらに、二・四二メートル進んで進路変更を開始し、一八・九七メートル進んで第二車線に進入した途端、衝突した旨指示説明している。

被告は、原告が第二車線への進路変更に際し、進路変更の合図をしなかった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告は、時速三〇キロメートルで走行していたのであるから、前掲の実況見分調書の原告の指示説明に基づいて計算すると、合図をして進路変更を開始するまでの一〇・九二メートルを走行するのに約一・三秒、合図から衝突までの二九・八九メートルを走行するのに約三・六秒であったが、仮に、原告が、道路交通法施行令一二条に従い、合図から三秒後に進路変更を開始したとすると、被告の速度と衝突地点からみて、進路変更開始直前に、被告は約一〇数メートル程原告の後方に接近していたこととなるので、原告において進路変更を開始する前に後方を確認すれば、被告を発見することが可能であったといえる。そうすると、原告には進路変更の合図を三秒間した後、後方の安全確認をして進路変更を開始すべきであったのに、これを怠りただちに進路変更を開始した過失が認められる。また、同様に計算すると、原告が後方を見てから衝突するまでの二一・三九メートルを走行するのに約二・六秒かかるが、この間、被告車の速度が時速一〇〇キロメートルとすると、被告車は約七〇メートル走行したことになり、急制動による減速及び被告が最初に原告を発見した際の距離(約七四メートル)を併せ考えると、原告が後方を見た時点で、被告は最も離れていても原告の右後方約七〇メートルを走行していたことになる。そして、右被告車の位置と前記認定の被告車のヘッドライトが上向きであったこと、本件事故現場付近の道路が直線で、本件事故当時車の通行がほとんどなく、夜間も見通しがよく、晴れていたこと、原告がゴルフケースを持った不自然な姿勢で運転していたことを考慮すると、原告が後方を見た時点で被告車を認識することが可能であったというべきで、原告には後方の安全確認が不十分であった過失が認められる。

したがって、被告に前方不注意、著しいスピード違反という過失があるものの、原告にも原動機付自転車の進路変更の際の注意義務違反、後方確認不十分の過失が認められるので、双方の過失割合を比較して、原告に三割の過失相殺をするのが相当である。

二  損害

1  治療関係費

(一) 入院費及び治療費(被告より受領した金一〇四〇万九七〇三円の外) 金七四万四九五〇円

症状固定日までの治療費として金一〇四〇万九七〇三円を被告が支払ったことは当事者間に争いがない。

証拠(甲三一、三二ないし三四、三六の一・二、三七の一・二、三九の一・二、四〇の一・二、四五の一・二、四六の一・二、四九、五一、五四、五六ないし六〇、六五の一ないし三、六七の一ないし三、七三の一ないし三、七四の一・二、九二ないし九四の各一・二、一〇〇ないし一〇三の各一・二、一〇四)及び弁論の全趣旨によれば、症状固定日(平成七年一月三一日)以後である平成七年六月二七日から平成一〇年一月二三日までの間に、原告が財団法人鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター及び東京医科大学八王子医療センターへの入院費及び治療費として金七三万八九五〇円、トレーニング用ゴムバンド、カテリパッド代金として金六〇〇〇円、合計金七四万四九五〇円を支払ったことが認められる。

右は症状固定後の治療費であるが、証拠(甲一二、八一、八九、九七、一一一)によれば、原告は、右大腿部切断の位置と義足装着との関係で、義足装着部分の筋肉に力を入れると、筋肉の収縮や変形が生じてソケットと足の装着部分に隙間ができ、これを繰り返すと空気が漏れてソケット内部が真空に近い状態になり、陰圧が起きて炎症や毛細血管の出血が生じ、放置すると激痛が続き歩行が困難になったので、義足の修理、調整、リハビリのため財団法人鉄道弘済会東京身体障害者福祉センターに入通院し、また、本件事故による鎖骨骨折の抜釘手術及び大腿部切断部分の炎症による断端部の形成手術のため東京医科大学八王子医療センターに入通院し、治療を受けたことが認められるので、右は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(二) 診断書作成料(二通) 金二万三七五〇円

証拠(甲二九、九〇)によれば、損害賠償請求のため、原告が、東京医科大学八王子医療センターに対し、診断書作成料(二通)として金二万三七五〇円を支払ったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(三) 入通院付添費(被告より受領した金八六万一一二四円の外) 認めない。

入院付添費として金八六万一一二四円を被告が原告に支払ったことは当事者間に争いがなく、それに加えて、近親者の入院付添費の必要性を認めるに足りる証拠はない。また、原告主張の近親者の通院付添費の必要性を認めるに足りる証拠はない。

(四) 入院雑費 金七三万七一〇〇円

前記争いのない事実等及び前記認定の原告の傷害の部位、程度、治療経過に照らし、入院中の雑費として、全入院期間五六七日につき、一日当たり金一三〇〇円、合計金七三万七一〇〇円が、本件事故と相当因果関係のある損害である。

(五) 入通院交通費(被告より受領した金一六万四八七〇円の外) 金一七万八七〇円

交通費として、被告が金一六万四八七〇円を支払ったことは当事者間に争いがない。

証拠(甲三〇、三八、四一ないし四四、四七、四八、五〇、五五、五八、六二ないし六四、六六、六九ないし七二)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、八王子市にある自宅から財団法人鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター等までの入通院に際し、平成七年八月一四日から平成八年五月一七日までの間にタクシーを利用し、その代金一六万三四一〇円を支出したこと、平成九年三月一〇日から平成一〇年一月二三日までの間にJRを利用し、交通費金七四六〇円を支出したことが認められ、前記争いのない事実等及び前記認定の原告の傷害の部位、程度、治療経過に照らすと、右の費用合計金一七万八七〇円は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(六) 謝礼 金一〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は別紙記載の治療を受けた医師への謝礼として、合計金三〇万円の金品を送ったことが認められるが、原告の入、退院の期間、症状等に照らし、金一〇万円をもって本件事故による相当因果関係のある損害と認める。

(七) 装具・器具関係費 金四三一万四二三〇円

(1) 義足購入費等 金一二〇万九二三〇円

証拠(甲三五、六八の一・二、八四)及び弁論の全趣旨によれば、原告が仮義足の部品代金七万円、修理代金二八万九八二〇円、本義足購入費金八四万九四一〇円、合計金一二〇万九二三〇円を支払ったことが認められ、右は本件事故による相当因果関係のある損害である。

(2) 将来の義足の修理、交換費用 金三一〇万五〇〇〇円

証拠(甲八四、八六の一ないし三、九七、九九の二、一一一)及び弁論の全趣旨によれば、義足代が平成八年度価格で金八四万九四一〇円であること、原告の切断部分の形状及び治療経過から少なくとも年一回の義足の調整が必要であり、義足のソケット部分の交換には二〇数万円要すること、部品のうち耐用年数が最長のもので五年と設定されていることが認められる。そうすると、五年ごとに義足を買い換えるものとして、一回の義足の交換に要する費用は原告の主張する金一〇〇万円を下らないので、症状固定時の原告の平均余命が約四〇年とすると、少なくとも計八回買い換えることが必要であると考えられるから、将来の義足代は、五年ごとのライプニッツ計数を下に計算すると、金三一〇万五〇〇〇円となる。

計算 1,000,000×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420)

なお、被告は、身体障害者福祉法等に基づき、義肢、装具等の交付ないし費用の支給等がなされ、装具については申請をすれば支給を得られる以上、相当因果関係を欠く旨主張するが、将来にわたって公的給付制度により原告の義足が確実に給付されるか未定であること、公的給付を利用するか又は加害者から損害賠償を受けて賄うかは被害者の選択に委ねられるべきものであることからすると、被告の右主張は採用できない。

2  家屋・調度品購入費 認めない。

原告主張の乗用車の現在及び将来の改造費、家改造費、自動車教習所の授業料は、証拠として、車の改造、家屋の改造についての各見積書(甲八七、八八)が提出されているが、これらは改造内容、改造箇所について具体的に明らかでない上、原告が、本件事故前ほとんど自動車を運転したことがないこと(甲一二)及び前記認定の原告の傷害の部位、程度に照らすと、これを認めることはできない。

3  休業損害 金三〇七万七八九六円

休業損害の内金として金一〇〇万九二八七円を被告が支払ったことは、当事者間に争いがない。

証拠(甲八二)及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件事故発生当時の年収は金三一一万二〇〇〇円で、平成六年二月五日から症状固定日である平成七年一月三一日までの三六一日間本件事故による受傷により稼働できなかったことが認められ、本件事故による休業損害は、次のとおり金三〇七万七八九六円となる。

計算 3112000×361÷365=3077896 一円未満四捨五入

4  逸失利益 金四一九一万六三三七円

前記争いのない事実等及び証拠{甲一二、七五、八二、八三(後記措信しない部分を除く)、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)}並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成七年一月三一日症状固定と診断され、後遺症は、右大腿膝上一二センチメートルで切断、右母指基節骨骨折後IP関節の機能障害、恥骨結合離開(約二センチメートル)で、その後遺障害の程度は、等級表四級五号の「一下肢をひざ関節以上で失ったもの」と一二級五号の「骨盤骨に著しい奇形を残すもの」との併合三級に該当する。

(二) 原告は、昭和三三年一月四日生まれの健康な男性で、日本大学芸術学部音楽学科管楽コースを卒業し、職業的ミュージシャンとして、特定の歌手のバックバンドに所属し、トロンボーンの演奏をし、バンドマスターを通じて出演料を受領していた。本件事故の前年である平成五年三月に、原告がそれまで五年間所属していた右バックバンドが編成替えで解散したため、次のバックバンドが決まるまでの予定で、同年四月から本件事故時まで知人の経営する解体業を営む中村レジデンスで働き、同年四月から同年一二月までの間に合計金二四六万二〇〇〇円の給与を得ていた。同年一月から三月までのバックバンドの出演料は金六五万円で、原告の同年の年間収入は、金三一一万二〇〇〇円である。

(三) 原告は、本件事故により受けた傷害により、義足で楽器を携帯しての地方公演のための移動が困難となり、さらに、右母指基節骨骨折による機能障害で、今後従前のように、職業的ミュージシャンとしての活動を続けることは難しい。原告は、現在、無職で両親に扶養されている。

右認定事実によれば、本件事故前の年収金三一一万二〇〇〇円を基礎収入として、原告の労働能力は九二パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告は本件事故による後遺障害の症状固定時には満三七歳であり、六七歳まで三〇年間は就労可能であり、ライプニッツ方式により中間利息を控除して計算すると、本件事故による逸失利益は、金四一九一万六三三七円(一円未満四捨五入)となる。

計算 3112000×0.92×(15.5928-0.9523)=41916337

原告は、算定の基礎となる収入について、事故当時の収入は一時的なバイト収入であるから、職業的ミュージシャンとしての収入によるべきであり、その収入額が不明な場合として賃金センサスによるか、あるいは、本件事故前までは、職業的ミュージシャンとして約金四〇〇万円の収入を得ていた旨主張するので検討する。なるほど、事故前の職業的ミュージシャンとしての年収が約金四〇〇万円あった旨の原告本人の供述や陳述書(甲八三)もあるが、これらは、原告が前記バックバンドに所属していた当時確定申告をし、申告書の控えを一部所持し、申告額が金四〇〇万円に満たないことを自認していることに照らし、にわかに措信できない。また、原告は確定申告書を提出しないので、職業的ミュージシャンとしての年収も金三一一万二〇〇〇円を上回るものでないと解するのが相当である。そして、原告は数年間、バックバンドのトロンボーン奏者として活動し、年金三一一万二〇〇〇円の収入を基礎収入とすることが不合理である特別な事情を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用できない。

5  慰謝料 金二三〇〇万円

原告は、本件事故によりトロンボーン奏者として活躍することが事実上困難となったこと、自動車、家屋の改造費用を認めるに足りる証拠はないが、その必要性は肯認され、何らかの出費は不可欠であること、及び前記争いのない事実等、前記認定の事実並びにその他本件に現れた全ての事情を考慮すると、入通院(傷害)慰謝料として金三〇〇万円、後遺症慰謝料として金二〇〇〇万円が相当である。

6  過失相殺及び既払金の控除

以上を合計すると金八五五二万八三〇円となり、前記認定にかかる三割の過失相殺をすると、金五九八六万四五八一円となる。

そして、争いのない事実等4記載の損害の填補額金一四三〇万六三三六円を控除すると金四五五五万八二四五円となる。

7  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額等の諸事情によれば、原告が被告に請求し得る本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は金四五〇万円が相当である。

8  合計 金五〇〇五万八二四五円

三  結論

本訴請求は、金五〇〇五万八二四五円及びこれに対する本件事故の日である平成六年二月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 都築民枝)

別紙 治療経過

一 入院

1 平成六年二月四日から同年八月一日まで東京医科大学八王子医療センター(右大腿部切断手術他、以下「医療センター」という。)

2 平成六年八月一日から同年一〇月二二日まで財団法人鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター(義足の製作、調整等、以下「福祉センター」という。)

3 平成六年一一月一〇日から平成七年一月一九日まで医療センター(鎖骨手術)

4 平成七年一月三一日症状固定

5 平成七年三月一三日から同年四月一五日まで福祉センター

6 平成七年八月一四日から同年九月一日まで福祉センター

7 平成七年九月二一日から同年九月二二日まで福祉センター

8 平成七年一〇月二日から同年一〇月三日まで福祉センター

9 平成七年一〇月一六日から同年一〇月一七日まで福祉センター

10 平成七年一一月七日から同年一二月二一日まで福祉センター

11 平成八年一月一一日から同年三月一二日まで医療センター(同年一月二四日鎖骨の抜釘手術、右大腿部形成手術)

12 平成八年三月二五日から同年四月三〇日まで福祉センター

13 平成八年五月一〇日から同年五月一七日まで福祉センター

14 平成九年三月一〇日から同年三月一一日まで福祉センター

15 平成九年七月二日から同年七月三日まで福祉センター

16 平成九年八月二六日から同年八月三〇日まで福祉センター

17 平成九年九月八日から同年九月一〇日まで福祉センター

18 平成九年九月二五日から同年九月二六日まで福祉センター

19 平成九年一二月八日から同年一二月一三日まで福祉センター

20 平成一〇年一月一九日から同年一月二三日まで福祉センター

以上 入院日数 五六七日

二 通院

1 平成六年七月二五日 福祉センター

2 平成六年一〇月二五日 医療センター

3 平成六年一〇月二六日 医療センター

4 平成六年一〇月二九日 医療センター

5 平成六年一一月四日 医療センター

6 平成七年一月二四日 福祉センター

7 平成七年一月三一日 医療センター

8 平成七年二月一七日 医療センター

9 平成七年二月二一日 福祉センター

10 平成七年三月八日 医療センター

11 平成七年四月一八日 医療センター

12 平成七年六月二七日 医療センター

13 平成七年九月四日 医療センター

14 平成七年一〇月三〇日 福祉センター

15 平成七年一二月二五日 福祉センター

16 平成八年一月八日 医療センター

17 平成八年三月四日 福祉センター

以上 通院日数 一七日

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